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【第2章②】恋人がいないのは、「自分に魅力がないから」と思うのは、500%間違っている

 いよいよ人生最大の不条理に取り組む時が来ました。

 恋人がいないのは自分に魅力がないからと思っている男性は、500パーセント間違っています。自分ではなく、精子が卵子より価値がないから、あぶれる男が出てくるのです。

 動物の世界でも、基本的に雌が雄を選びます。だから雄は雌の「オーケー」をもらえるように、他の雄と激しく競争しなければなりません。動物も一般に雌の売手市場で、あぶれるのは雄です。特に一夫多妻の種では、雄の大半が生殖のチャンスを奪われています。
 一例をあげると、ゾウアザラシの雄は十頭から三十頭の雌を独占してハーレムを作ります。特に強い雄は二百頭のハーレムを構えて、百頭以上の子どもを設けます。一方、脱落した大多数の独身雄は、ひたすら他の雄と戦って、ハーレムの主になろうと奮闘するのです。しかし結局、多くの雄は苦労のかいもなく、一回も交尾ができずに死んでゆきます(人間に生まれてよかった)。

 しかしなぜ、雄が雌に頭を下げなければならないのか。雄と雌の決定的な違いを知れば、その謎は解けます。雄と雌はナニで区別するかといいますと、ペニスの有無ではありません(カエルや鳥、植物にペニスはありません)。
 男の苦しみを理解するために、一つだけ専門用語を使うと、生物学では「配偶子」の大小で雄雌を決めます。配偶子とは、雄と雌が子を産むときに放出する特別な細胞で、必ず大小に差があります。小さいほうが精子、大きいほうが卵子です。まとめると、小さな配偶子(精子)を作るほうを雄といい、大きな配偶子(卵子)を作るほうを雌というのです。

 精子は卵子より小さい。このたった一つの違いが原因で、これから見るように、雄と雌の運命は全く異なったものになります(注1)

 卵子は精子に比べると大きくて栄養も多いので、当然高価です。どれくらい差があるか、人間で考えてみましょう。女性は卵巣に二百万個の卵子をもって生まれてきますが、誕生後に新しく作られることはないので、卵子は死んで減る一方です。思春期には、二十万個から三十万個に減っています。それに対して、微細な精子は簡単に大量生産できますから、成人男性は精子を毎日一億個作り、生涯では二兆個に達します。卵子に比べたらタダ同然。
 卵子は精子よりはるかに貴重です。そんな特別な資産を持っているのですから、雌は生まれながらに尊いのです。雄は必然的に、その貴重な卵子を求めて壮絶な奪い合いをしなければなりません。

 雌ばかり得してずるい! そんな失礼なことを言ってはいけません。卵子を作るのも大変ですが、子どもを産むのはもっと大変です。夫婦が子どもを生むといっても、夫の貢献がわずか3㏄の精子なのに対して、妊娠した女性は九か月にわたって胎児に栄養を送らなければなりません。その間に消費するエネルギーは八万キロカロリーといわれ、これは千三百キロを走り抜くエネルギーです。

 安価な精子でさっと子どもを産める雄は、何と気楽なことでしょう……と言いたいところですが、雄は簡単に子を産めるからこそ、厳しい競争を運命づけられているのです。多くの雌が交尾をしたくなる優秀な雄は、いとも簡単に多くの雌を妊娠させることができます。そうなると、妊娠可能な雌の数は限られていますから、もてない雄は完全にあぶれてしまいます。
 人間も同じで、権力のある男や、モテる男が素早く複数の女性に手を出して妊娠させてしまうから、多くの男がベッドに入る機会を失ってしまうのです。

 男は出産や子どもに乳を与える苦労をしなくてよいかわりに、彼女を見つける熾烈なレースに参加しなければなりません。この戦いが嫌なら、自分が出産することです。現に雄が出産するタツノオトシゴは、雄がモテモテで雌から熱烈なラブコールを受けます。
 もっとも、男に陣痛の苦しみを与えたら死んでしまうと言われますので、やはり女性の許しを得るまで百回プロポーズするのが男の生きる道なのかもしれません。
 男はつらいよ。


【注1】

「動植物を通じて、雄を雄、雌を雌と名づけるのに使用しうる基本的な特徴が一つ存在するのである。雄の性細胞すなわち「配偶子」は、雌の配偶子に比べてはるかに小形で、しかも数が多いというのがその特徴だ。この点は、動植物いずれを扱う場合にも当てはまる。(中略)あとで明らかになることであるが、他のすべての性差は、この一つの基本的な差異から派生したと解釈できるのである」(『利己的な遺伝子 <増補新装版>』226頁)《本文へ戻る》

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コメント

子育てにかかるコストも関係がありそうですね。
絶大な権力を持ったオスなら、1匹で子供を100人作ることも可能ですが、その反対は不可能ですしね。
人間で言えば、女性はどんなにがんばっても1年に一人しか子供を作ることができないので、慎重にパートナーを選ぶのではないでしょうか。
その点、男は独裁者や皇帝なんかだと何人でも子供を作れるので、割と気軽に子供を作ってしまうのではないかと思います。

タイトルにひかれて見に来ました。
久しぶりに真剣な内容でありながら、笑って読める内容に出会いました。
まさに不条理ですね。
おもしろくて、内容のある文章でこれからも楽しませてください。

まずは男性という性がなぜ存在するようになったかということです。ここでは精子の価値について触れられていますが、精子が人間だったわけでも、卵子が人間だったわけでもありません。人間は精子であって卵子であったわけです。また、このことは男性にも女性にも言えることです。つまり、精子=男性、卵子=女性では無いということです。

ここで記されているような大きさと言うよりも関係性の問題でしょう。ここで述べられているような現象は行動的か受動的かの違いと考えた方が自然です。それは最初に書いたように「男性という性が存在する理由」を知っていれば簡単なことです。

女性は尊く、男性の価値は低い。このように考える人は本当に多い。女性一人で子を産むと考える浅はかな人間が多くなったのでしょう。このような人が、そもそも生命に価値をつけられるほどの人間なのだろうか?

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