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【第8章①】因果論は運命論でない

「因果の道理」は、「因果律」とか「因果論」といわれ、「すべての結果には必ず原因がある」と教えます。
「因果論」を認める人ばかりではありませんから、「因果論」に対しては、さまざまな批判があります。しかし、因果論に向けられた非難のほとんどは、「運命論」に対してのものです。
「運命論」は、「因果論」が厳しく排斥する考えですが、「因果論」との違いが分かりにくく、多くの誤解を生んできました。
 そこで、「運命論」と「因果論」は、どこが違うのか、この章で明らかにしたいと思います。
「因果論」は、「すべての結果には必ず原因がある」という主張ですが、「運命論」は「すべての結果は、すでに決まってしまっているから、どうやっても変えることはできない」という〝アキラメ主義〟です。
「運命論」の例をあげましょう。こんな学生の屁理屈も、一種の運命論です。
「私が大学に合格するかどうかは、もう決まっている。合格するに決まっているなら、どれだけ勉強をサボっても、合格するに違いない。不合格に決まっているなら、いまさら努力しても全部、無駄になるのだ。勉強しようがしまいが、受かることになっているなら受かるし、受からないことに決定しているなら、じたばたしてもしかたない。だから私は勉強しない」
 こういう言い訳を聞くだけでも、「運命論」には何かおかしい点があると、感じられると思います。どこに問題があるのか、今度は古代ギリシア人の運命観にスポットを当てましょう。

【第8章②】オイディプス王の悲劇(その1)

 古代ギリシアには、すぐれた悲劇が多数ありますが、そこには「人間には、運命には逆らえない。与えられた運命は、どんな恐ろしいものであっても、耐えなければならない」という「運命論」が流れています。
 ソポクレスの『オイディプス王』は、ギリシア悲劇の最高傑作といわれていますが、ここで明かされるオイディプス王の悲劇は、ギリシア神話の中でも、最も多くの文学、思想で論じられたものです。この悲劇を通して、ギリシア人が運命について、どう考えていたのか、見てみましょう。

 舞台は呪われた国、テーバイ。テーバイの王ライオスは、予言の神アポロンから、もし子を生めば、わが子によって殺されるだろうという託宣を受けました。そのためライオスは、子を産まないようにするため、夫としての義務を果たさなかったといいます。しかし、あるとき酒に酔った勢いで、妃イオカステを妊娠させてしまいました。
 月満ちて男の子が生まれるや、ライオスは、その子を殺そうとします。生まれたばかりの赤ん坊の両足を、金のピンで刺し貫いて歩けなくすると、山奥に捨てるように家臣に命じました。
 家臣が子どもを捨てた山は、テーバイ国と、隣のコリントス国との境でした。その不幸な子どもを、コリントスの牧人が見つけ、主君の館に連れ帰ると、子どものなかったコリントス王は、神の授けものと思い、わが子として育てることにしたのです。
 その子は、父ライオスに貫かれた足の傷が癒えず、足が腫れていたのでオイディプス(ふくれ足)と呼ばれました。

【第8章③】オイディプス王の悲劇(その2)

 オイディプスは立派に成長し、運動競技でも、常に友人を負かしました。ある日、負けた友達の一人が、悔しさからオイディプスは、コリントス王の実子ではないと、ほのめかしたのです。
 驚いたオイディプスは、母に真相を尋ねますが、明確な返事は得られませんでした。やむなく、デルポイの神殿を訪れ、アポロン神の言葉を聞くことにします。ところが、巫女の伝えた言葉は、出生のことではなく、「故郷に帰れば、父を殺し、母と交わるだろう」という予言でした。
 仰天したオイディプスは、すぐさま故郷を離れる旅に出ましたが、その足は自然と、テーバイに向かっていました。途中、三叉路で馬車に乗った老人とすれ違います。そばには数人の者が従っていました。細い道で、すれ違うことはできなかったのですが、互いに道を譲らず、立腹した老人が鉄のついた鞭でオイディプスを打とうとしましたが、オイディプスは反撃し、老人も従者も打ちのめしてしまいました。その老人こそ、父ライオスだったとは、知るよしもありませんでした。

【第8章④】オイディプス王の悲劇(その3)

 しばらくして、青年オイディプスはテーバイの都に着きましたが、そこは混乱の真っ只中でした。王の一行が山賊に襲われ、皆殺しになったと伝えられました。現場から一人だけ、命からがら逃げた者が、そう報告したのです。
 さらにテーバイの郊外の丘には、スフィンクスという、顔は人間の女で、身体は獅子、鷲の羽根を持つ怪物が、旅人に謎をかけ、答えられない者を食い殺していました。その謎とは、「始めは四本足で歩き、中ごろは二足となり、終わりに三足となる動物は何か」というものです。
 王が不在のため、王妃イオカステの兄弟クレオーンが政治を摂り、スフィンクスを退治した者には、王の位とイオカステを与えるという触れを出しました。
 それを聞いた旅人オイディプスは、さっそくスフィンクス退治に出かけます。オイディプスが、スフィンクスの謎かけに「それは人間」だと答えると、スフィンクスは恥辱の余り、谷底に身を投げて自殺しました。
 かくてスフィンクスの禍いはなくなり、オイディプスは約束どおり、テーバイの王となり、イオカステと結婚し、男児二人、女児二人を儲けます。かくてオイディプスに下された予言は、二つとも実現してしまったのです。
 オイディプスは、民衆を救った英雄と仰がれ、栄誉と幸福を手にしました。
 しかし、それも長くは続きませんでした。

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