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成功者の悩み

宗教的経験の諸相 上 (岩波文庫 青 640-2)
W.ジェイムズ
岩波書店
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 外からは成功者と見られている人でも、心から満足している人は少ないと、心理学者W・ジェームズは指摘しています。

 もっとも幸福な人間、世間の羨望の的となっている人間をとってみても、十人のうち九人まで、その心の奥底の意識は、失敗の意識なのである。彼が達成しようとした理想が、達成された事業そのものよりもずっと調子の高いものであるか、それとも、彼は、世間の夢にも知らないような秘密の理想をいだいてはいるが、内心では、自分がその理想に達しえないことを知っているか、いずれかなのである。
 ゲーテのような無類の楽天家が次のように自分を表現するとき、彼ほどの成功に恵まれぬ者はどう自己を表現すべきであろうか?
「私は自分のたどってきた人生行路に、」と一八二四年、ゲーテは書いている。「いささかも不服をとなえようとは思わない。しかし、結局、私の生活は苦痛と重荷にすぎなかったし、七十五年の生涯において、真に幸福であったのは四週間とはなかった、とさえ断言できる。私の生涯は、たえず転がり落ちるので永遠にもち上げてやらねばならぬ岩のようなものでしかなかった。」(上掲書208頁)

滅びざる幸福こそ人生の目的

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 絶対、死にたくない人間が、絶対、死ななければならない。これほどの矛盾があるでしょうか。このような矛盾を抱えた私たちに、本当の安心がえられるはずはありません。すべての人が求めているのは、一切が滅びる中に、滅びざる永遠の幸福ではないでしょうか。

 もし人生が善であれば、人生の否定は悪とならざるをえない。それにもかかわらず、この二つは、等しく人生の根本的な事実なのである。したがって、すべて自然のままの幸福は矛盾を含んでいる。そのまわりには墓場の匂いが立ちこめているのである。(中略)私たちが、死ぬことができる、病気になることができる、という事実が、私たちを悩ますのである。私たちが、さしあたっていま、生きており、そして健康である、という事実は、その悩みにとっては重要な問題でない。私たちは、死と関連していない生を、病気にかかることのない健康を、滅びることのないような種類の善を、つまり、自然的な善を超越した事実のうちにある善を、求めるのである。(上掲書212頁)

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